獣医師が解説する犬の口腔内腫瘍 症状や治療について

みなさん、日頃から愛犬の歯磨きを実施していますか?歯磨きは、歯科疾患の予防のみならず、気づきにくい口の中の異常を早期に発見できるというメリットもあります。特に、高齢になって、口の中にできものが出来ていて、それが腫瘍であった場合、かなり進行の早い悪いものであることもあります。ここでは、口腔内でみられる4大腫瘍(メラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫、棘細胞性エナメル上皮腫)について、詳しく解説していきたいと思います。

犬の口腔内腫瘍で最も発生率が高い~メラノーマ(黒色種)~

メラノーマは、他の口腔内悪性腫瘍比べて小型犬でよく発生する傾向にあります。この腫瘍は、最も発生頻度が高く、口腔内腫瘍の中でも30〜40%を占めるとされています。気になる症状や治療方法などをご紹介していきます。

好発犬種

コッカースパニエル、ミニチュア・プードル、アナトリアン・シープドック、ゴードン・セッター、パグ、チャウチャウ、ゴールデン・レトリバーなど。

平均年齢

9〜12歳

好発部位

歯肉、頬もしくは口唇粘膜

転移

口腔内のメラノーマは、領域リンパ節(腫瘍が発生している部位に近いリンパ節で、口腔内腫瘍の場合、下顎リンパ節か咽頭リンパ節のどちらかです。)や肺へ高頻度で転移する悪性度の高い腫瘍です。転移率は、部位、大きさ、そして進行度によって異なり、罹患犬の最大80%にも及ぶといわれています。

肉眼的所見

どのように見えるかというと、黒色種といわれているように、メラノーマは3分の2の割合でメラニンを含んでいて、黒い色を呈します。残りの3分の1はメラノーマでも黒い色を呈しません。また、もろくてすぐ出血をおこすことが多く、潰瘍をおこしていることもあります。

骨浸潤

骨浸潤というのは、つまり軟部組織に腫瘍が発生して、その腫瘍がその下の骨まで浸潤していくことをいいます。メラノーマでは、この骨浸潤も多く、57%の確率でおこってくるとされています。

腫瘍の治療

外科的に切除可能な部位であった場合、広範囲な外科的切除がおこなわれます。また、放射線療法も単独、あるいは外科と併用で選択されます。(以下に各々の反応率、局所再発率、生存期間中央値、1年生存率について記載します。)その他化学療法や、また近年では分子的アプローチ、特に免疫調節療法が注目されています。

・外科治療
  • 反応性:中等度〜良好
  • 局所再発:0〜59%
  • 生存期間中央値(*):5〜17ヶ月
  • 一年生存率:21〜35%
  • (*)生存期間中央値は、犬の患者の半分が再燃(腫瘍が再発すること)、あるいは死亡し、半分が寛解状態(腫瘍が全く認められない状態)で生存している地点です。

    ・放射線治療
    • 反応性:良好
    • 局所再発:11〜27%
    • 生存期間中央値:4〜12ヶ月
    • 一年生存率:36〜71%
    • 腫瘍の予後

      生存期間中央値は36ヶ月以内とされていて、特に遠隔転移が認められる場合は予後は悪く、生存率は3〜6ヶ月程度です。

      犬の口腔内腫瘍 2番目に多い~扁平上皮癌~

      扁平上皮癌は、中型犬〜大型犬の老齢犬でよく発生する傾向にあります。上記しましたように、この腫瘍は、犬の口腔内腫瘍で2番目に発生率が高く、口腔内腫瘍の中でも17〜25%を占めるとされています。気になる症状や治療方法などを紹介していきます。

      平均年齢

      8〜10歳

      好発部位

      歯肉、口唇、扁桃、舌

      転移

      口腔内の扁平上皮癌は、領域リンパ節(腫瘍が発生している部位に近いリンパ節)や肺への転移はまれで、20%ほどとされています。転移率は、発生部位に依存していて、吻側(顎の手前側)では低く、尾側の舌もしくは扁桃では高い転移率を示します。扁桃の扁平上皮癌は特に挙動が悪く、転移率も高く、73%にも及ぶといわれています。

      肉眼的所見

      どのように見えるかというと、赤色で、もりもりとカリフラワーのように見えることが多く、もろく出血しやすく、潰瘍をおこしていることもあります。

      骨浸潤

      骨浸潤というのは、つまり軟部組織に腫瘍が発生して、その腫瘍がその下の骨まで浸潤していくことをいいます。扁平上皮癌では、この骨浸潤が非常におこしやすく、77%の確率でおこってくるとされています。

      腫瘍の治療

      扁平上皮癌は、一般に転移率が低いため、治療において重要なのは、原発性腫瘍のコントロールとされています。よって、部位的に外科的切除が可能であれば、広範囲に上顎骨切除、下顎骨切除が実施されます。また、放射線治療も単独、および外科と併用で選択されます。(以下に各々の反応率、局所再発率、生存期間中央値、1年生存率について記載します。)その他化学療法や、近年では分子標的剤を使用した治療も注目をあびています。
      また、癌の痛みを和らげ、進行を遅らせる目的で非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)もよく使用されます。

      ・外科治療
      • 反応性:良好
      • 局所再発:0〜50%
      • 生存期間中央値(*):9〜26ヶ月
      • 一年生存率:57〜91%
      (*)生存期間中央値は、犬の患者の半分が再燃(腫瘍が再発すること)、あるいは死亡し、半分が寛解状態(腫瘍が全く認められない状態)で生存している地点です。

      ・放射線治療
      • 反応性:良好
      • 局所再発:31〜42%
      • 生存期間中央値:16〜36ヶ月
      • 一年生存率:72%

      腫瘍の予後

      一般的に、扁平上皮癌の生存期間中央値は26〜36ヶ月以内とされています。

      犬の口腔内腫瘍3番目に多い~線維肉腫~

      線維肉腫は、大型犬種、特にゴールデン・レトリバーおよびラブラドール・レトリバーでよ発生する傾向にあります。雌と雄の発生比率は2:1で、雌に比べて雄の発生率が高いです。上記しましたように、この腫瘍は、犬の口腔内腫瘍で3番目に発生率が高く、口腔内腫瘍の中でも8〜25%を占めるとされています。気になる症状や治療方法などをご紹介していきます。

      平均年齢

      7〜9歳

      好発部位

      上顎歯肉、硬口蓋

      転移

      口腔内の線維肉腫は、局所侵襲性の非常に強い腫瘍ですが、領域リンパ節(腫瘍が発生している部位に近いリンパ節)や肺への転移は低く、30%以下といわれています。細かな発生率では、領域リンパ節転移率は9〜28%、遠隔転移率は幅があり、0〜71%というデータもでています。

      肉眼的所見

      どのように見えるかというと、底面が広く堅い平滑な腫瘤として認められ、初期の段階では、歯肉の過形成と区別することは困難となります。また、潰瘍をおこしていることもあります。

      骨浸潤

      骨浸潤というのは、つまり軟部組織に腫瘍が発生して、その腫瘍がその下の骨まで浸潤していくことをいいます。線維肉腫では、この骨浸潤は多く、60〜72%の確率でおこってくるとされています。

      腫瘍の治療

      線維肉腫は、あまり放射線治療の成績がよくなく、第一選択は、外科的切除になることが一般的です。可能であれば、広範囲に上顎骨切除、下顎骨切除が実施されます。また、放射線治療も成績がよくないとはいえ、発生部位的には単独、および外科と併用で選択されます。(以下に各々の反応率、局所再発率、生存期間中央値、1年生存率について記載します。)その他化学療法も選択される治療の一つです。

      ・外科治療
      • 反応性:中等度〜良好
      • 局所再発:31〜60%
      • 生存期間中央値(*):10〜12ヶ月
      • 一年生存率:21〜50%
      (*)生存期間中央値は、犬の患者の半分が再燃(腫瘍が再発すること)、あるいは死亡し、半分が寛解状態(腫瘍が全く認められない状態)で生存している地点です。

      ・放射線治療
      • 反応性:不良〜中等度
      • 局所再発:32%
      • 生存期間中央値:7〜26ヶ月
      • 一年生存率:76%

      腫瘍の予後

      一般的に、扁平上皮癌の生存期間中央値は18〜26ヶ月以内とされています。口腔内腫瘍の死亡の原因として、遠隔転移疾患があげられることもありますが、線維肉腫は転移率がさほどでないものの非常に局所の浸潤率が高いため、局所疾患が死因になることが多いです。

      犬の口腔内腫瘍4番目に多い~棘細胞性エナメル上皮腫(棘細胞性エプリス)~

      棘細胞性エナメル上皮腫は、小型犬、大型犬どちらにもおこりうるもので、シェトランド・シープドッグ、オールド・イングリッシュ・シープドッグには遺伝的素因が認められています。気になる症状や治療方法などをご紹介していきます。

      平均年齢

      7〜10歳

      好発部位

      吻側下顎(手前の方の下顎)

      転移

      口腔内の棘細胞性エナメル上皮腫は、局所侵襲性ですが、領域リンパ節(腫瘍が発生している部位に近いリンパ節)や肺への転移はおこしません。

      肉眼的所見

      どのように見えるかというと、赤色で、カリフラワーのような形を呈してみられることが多いです。また、潰瘍をおこしていることもあります。

      骨浸潤

      骨浸潤というのは、つまり軟部組織に腫瘍が発生して、その腫瘍がその下の骨まで浸潤していくことをいいます。棘細胞性エナメル上皮腫では、この骨浸潤は非常に多く、80〜100%の確率でおこってくるとされています。

      腫瘍の治療

      棘細胞性エナメル上皮腫は、遠隔転移をおこさないため、外科的に完全切除することにより治癒することができます。放射線治療も状況により選択される治療の一つです。

      ・外科治療
      • 反応性:優良
      • 局所再発:0〜11%
      • 生存期間中央値(*):28〜64ヶ月
      • 一年生存率:72〜100%
      (*)生存期間中央値は、犬の患者の半分が再燃(腫瘍が再発すること)、あるいは死亡し、半分が寛解状態(腫瘍が全く認められない状態)で生存している地点です。

      ・放射線治療
      • 反応性:優良
      • 局所再発:8〜18%
      • 生存期間中央値:37ヶ月
      • 一年生存率:>85%

      腫瘍の予後

      棘細胞性エナメル上皮腫は、遠隔転移をおこさないため、適切に診断され、治療をうけた場合、予後は優良です。

      犬の口腔内腫瘍のまとめ

      いかがでしたでしょうか?犬の口腔内でおこりうるトップ4の腫瘍について解説していきました。腫瘍は早期発見がキーになってきますので、最後のまとめで、おこりうる症状について紹介しておきます。
      • 口臭
      • よだれ
      • 顔の腫れ
      • 物を噛むとき口の中を痛そうに噛み合わせる
      • 食欲の減退
      • 口からの出血
      • 頸のあたりのしこり(リンパ節の腫脹)
      以上の症状が口腔内腫瘍で認められる主なものですが、これらの症状を起こしてから気づくと、かなり腫瘍が大きくなってしまっていることも少なくありません。特に口の奥の方に発生した腫瘍は発見が遅れることが多いです。
      なので、冒頭でも述べましたように、日頃から愛犬の歯磨きを徹底して、口の中のチェックを怠らないようにすることが重要です。口の中に何かポツリともりあがっているところがあったり、色が異なる場所があったり、気になることがある場合は早めに動物病院に連れて行ってあげて下さい。